「出雲」はなぜ出雲?
旧国名を「由来」から読み解く
琵琶湖を都から見て「近い淡水湖」と呼んだのが由来の近江。角を持つ渡来人の伝説が残る敦賀。
旧国名は、地形・位置関係・神話という3つの由来に分かれます。
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旧国名の由来は、3種類に分かれる
武蔵や近江といった旧国名(令制国名)を由来別に見ていくと、「地形・自然環境にちなむ地名」「都からの位置関係にちなむ地名」「神話・伝説にちなむ地名」の3種類に大きく分かれます。今回はこの3系統に沿って、12の旧国名・地名を紹介します。
旧国名は律令制のもとで定められた行政区分の名前ですが、名付け方は決して統一されていません。目に映る地形をそのまま呼んだ国もあれば、都という一点を基準に測った位置関係で呼ばれた国、神話の物語がそのまま国の名前になった国もあります。この違いを知ると、同じ「旧国名」でも見え方が変わってきます。
地形・自然環境にちなむ地名
01
近江国(おうみのくに)
琵琶湖を都(奈良)から見て「近い淡水湖」と呼んだ「近つ淡海(ちかつあわうみ)」が変化した名前です。遠く離れた浜名湖を指す「遠つ淡海」が転じた遠江国と対になっており、都からの距離をものさしにして名付けられた珍しい国名です。
02
甲斐国(かいのくに)
山々に四方を囲まれた地形を指す「峡(かい)」に由来するというのが、江戸時代の国学者・本居宣長が『古事記伝』で唱えた説です。険しい山あいにぽっかりと開けた盆地という土地の成り立ちが、そのまま国名になったとされています。
03
常陸国(ひたちのくに)
川や海に隔てられず、道が真っ直ぐに通じている「直道(ひたみち)」に由来するとされています。日本武尊が井戸を掘らせた際、湧き出た清水で袖を浸したという伝承も、この地に古くから伝わる国名の由来として語り継がれています。
04
伊豆国(いずのくに)
伊豆半島が海へ大きく突き出した地形をしていることから、「出づ(いづ)」が転じた名前だという説が有力です。半島各地に湧く温泉が由来という説もあり、いずれも水や陸地が「出る」土地という共通したイメージを持っています。
05
紀伊国(きいのくに)
山がちで木材が豊富な土地だったことから、もとは「木の国(きのくに)」と呼ばれていました。713年に国名を漢字二字で表す決まりができた際、木の神を祀る土地という意味を込めて縁起のよい「紀伊」の字が当てられました。
都からの位置関係にちなむ地名
06
陸奥国(むつのくに)
もとは「道の奥(みちのおく)」と呼ばれ、都から見て東山道・東海道が行き着く果ての地という意味を持っていました。国の支配が及ぶ範囲の一番奥という位置づけで、奈良時代までに「陸奥」という表記に改められ「むつ」と読むようになりました。
07
山城国(やましろのくに)
奈良の都から見て山の後ろ側にあることから、もとは「山背(やましろ)」と表記されていました。794年に桓武天皇が平安京へ遷都した際、山や川に囲まれた自然の要害という意味を込めて、縁起のよい「山城」の字に改められました。
08
上総国・下総国(かずさ・しもうさ)
かつて麻を意味する「総(ふさ)」と呼ばれた一帯が分かれてできた国です。都からの道が海路だったため、房総半島の南側に先に上陸する上総の方が都に近い「上」、北側の下総が「下」と呼ばれるようになった逆転現象が起きています。
神話・伝説にちなむ地名
09
出雲国(いずものくに)
『古事記』にはスサノオが詠んだとされる「八雲立つ出雲八重垣妻ごみに...」という歌が残されています。雲が幾重にも湧き立つ様子から名付けられたという説が広く知られており、日本最古の和歌ともいわれる歌にそのまま登場する国名です。
10
讃岐国(さぬきのくに)
『古事記』の国生み神話では、四国は顔が4つある一つの体として描かれ、讃岐は「飯依比古(いいよりひこ)」という名で登場します。「讃(ほ)め」「岐(山の姿)」を組み合わせ、美しい風土を讃えて名付けられたという説もあります。
11
因幡国(いなばのくに)
現在の鳥取県東部にあった「稲羽(いなば)郷」という地名がもとになったとされています。大国主命が皮をはがれて泣いていたウサギを助けたという『古事記』の「因幡の白兎」神話の舞台としても広く知られている国です。
12
敦賀(つるが)
『日本書紀』によれば、額に角を持つ渡来人・都怒我阿羅斯等(つぬがあらしと)が朝鮮半島から渡ってきた地とされ、もとは「角鹿(つぬが)」と表記されていました。713年に発せられた好字令によって、現在の「敦賀」の字に改められました。
地名は、消えない歴史の記録
令制国という制度そのものはとうの昔になくなりましたが、その名前は現在の県名や地域名の中に生き続けています。3系統に分けて眺めると、都を中心に据えた地理感覚(位置関係にちなむ地名)、目に映る風景(地形・自然環境にちなむ地名)、語り継がれた物語(神話・伝説にちなむ地名)という、名付けた人々のものの見方の違いが見えてきます。
とくに「紀伊」「敦賀」のように、713年の好字令によって元の呼び名から漢字二字の縁起のよい表記に改められた地名が複数あるのも特徴です。読み方はそのままに、字だけが後から整えられたケースが少なくありません。
💡 地理ジャンルは日本の地名と世界の地名が入り混じって出題されるため、聞き慣れた地名の意外な由来に出会えるのも魅力です。
参考文献
- 「古事記」. ——「出雲」「讃岐」「因幡」の由来となる神話の出典。
- 「日本書紀」. ——「敦賀」(角鹿)の渡来人伝説の出典。
- 本居宣長(江戸中期).「古事記伝」. ——「甲斐」の語源説の出典。
- 713年(和銅6年)発令の好字令(好字二字令). ——「紀伊」「敦賀」など、地名を漢字二字に改めた律令。