日本語のオノマトペ
(擬音語・擬態語)完全ガイド
「ふわふわ」「どきどき」「ざあざあ」——
音で感覚を伝える、日本語のオノマトペを分類・解説します。
オノマトペとは
オノマトペ(onomatopoeia)とは、音や様子を言葉で直接表す語の総称です。フランス語由来の言葉で、日本語では「擬音語・擬態語」と呼ばれます。
日本語のオノマトペは非常に豊富で、言語学者の田守育啓は日本語のオノマトペの語彙が他の多くの言語と比べて際立って豊かであることを指摘しています。[1] ただし「何語が世界一多い」という厳密な比較計量は研究者間でも難しいとされており、「非常に豊富」という表現が適切です。英語の "buzz"(ブーン)、"crunch"(バリバリ)に対し、日本語では同じ概念に複数のバリエーションが存在することが多い点は特徴的です。
3つの分類
日本語のオノマトペは主に以下の3種類に分けられます。ただし研究者によって分類の仕方は異なり、擬情語を擬態語の下位分類とする立場もあります。[1]
擬音語(ぎおんご)
実際の音を言葉で表したもの
雨の「ざあざあ」、犬の鳴き声「わんわん」、拍手の「ぱちぱち」など。音そのものを模倣しています。英語の "buzz"(蜂の羽音)や "splash"(水の音)に相当します。
擬態語(ぎたいご)
音のない様子・状態を言葉で表したもの
「ふわふわ(柔らかい)」「きらきら(輝く)」「ぐるぐる(回転する)」など。実際には音が存在しない概念を音のパターンで表現します。日本語の特徴的な語彙群で、対応する英語の単一単語が存在しないものが多くあります。
擬情語(ぎじょうご)
感情・感覚を音で表したもの
「どきどき(緊張・期待)」「わくわく(楽しみ)」「いらいら(苛立ち)」など。心理状態や感覚を音のパターンで表します。擬態語の一種と捉える立場もあります。
擬音語の例
ざあざあ
強い雨が降る音
「ざあざあと雨が降った」
ぽつぽつ
弱い雨・小さな点の音
「ぽつぽつと降り始めた」
ごろごろ
雷の音・重いものが転がる音
「雷がごろごろ鳴った」
ぱちぱち
拍手・薪が燃える音
「ぱちぱちと拍手が起きた」
さらさら
小川の音・砂が流れる音
「川がさらさらと流れた」
擬態語の例
きらきら
光が反射して輝くさま
「星がきらきら輝いた」
ぐるぐる
繰り返し回転するさま
「頭がぐるぐるする」
すっきり
整理されて爽快なさま
「部屋がすっきりした」
ひっそり
静かで人の気配がないさま
「ひっそりとした村」
擬情語(感情・感覚)の例
どきどき
心拍が速まる緊張・期待
「発表前にどきどきした」
わくわく
楽しい期待・高揚感
「旅行を前にわくわくした」
いらいら
苛立ち・焦り
「待たされていらいらした」
もやもや
すっきりしない不安・曖昧さ
「返事がなくてもやもやする」
しょんぼり
元気をなくしてしょげるさま
「失敗してしょんぼりした」
うきうき
嬉しくて浮かれた気持ち
「給料日前からうきうきした」
日本語のオノマトペの形の特徴
日本語のオノマトペには、形の上でいくつかの共通するパターンがあります。
| パターン | 説明 | 例 |
| AB型の反復 | 同じ音節を繰り返す | ざあざあ・きらきら・どきどき |
| 〜り型 | 語尾が「り」で終わる | こっそり・ひっそり・ぽっかり |
| 〜と型 | 語尾に「と」が付く | ぴたりと・ぽとりと・ふわりと |
| 促音(っ)型 | 促音を含む | ざっと・ぴったり・がっくり |
| 濁音化 | 清音と濁音で意味が変わる | きらきら(輝く)↔ ぎらぎら(刺激的) |
清音と濁音でニュアンスが変わる例:
「きらきら」は美しく輝く印象ですが、「ぎらぎら」は刺激が強く眩しい・不快な輝きのニュアンスになります。「ふわふわ」は柔らかく良い印象ですが、「ぶわぶわ」はやや重くたるんだ感じになります。濁音は一般的に「重い・強い・不快」の印象を加える傾向があります。[1]
オノマトペと語彙力
オノマトペは日本語の会話・文章の中で感覚的な情報を簡潔に伝えるための重要な手段です。「痛い」という言葉一つをとっても、「ずきずき(脈打つような痛み)」「ちくちく(針で刺すような痛み)」「じんじん(しびれる痛み)」「ずんずん(奥まで響く痛み)」と表現が変わり、より正確な情報を伝えられます。
医療・介護の現場でも、患者が自覚症状をオノマトペで表現することが多く、「どのような痛みですか?」という問いにオノマトペで答えることで診断に役立てられています。日本語のオノマトペは単なる装飾的な表現にとどまらず、実用的な語彙として機能しています。
💡 綾解きの生き物・植物ジャンルにはオノマトペに由来する言葉も含まれています。たとえばひらがなで出題される動物・植物の名前の中には、鳴き声・音のイメージから名前がついたものも。正解後の豆知識で語源を確認してみてください。
参考文献
- 田守育啓(2002).『オノマトペ——擬音・擬態語をたのしむ』. 岩波書店.
- Hamano, S. (1998). The Sound-Symbolic System of Japanese. CSLI Publications / Kurosio Publishers. ——清音・濁音の音象徴に関する研究として参照.